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 Written by 美咲ひなた


 
 薔薇と鎖 〜記憶〜

2012/10/05
御狐神双熾×白鬼院凜々蝶




「お目覚めになられましたか?」

窓から差し込む太陽の眩しさに寝返りをうつと、声がした。
驚いて飛び起きると窓辺に立っていた青年はニコリと笑う。

「お体は大丈夫ですか?失礼ながら、着替えと簡単に手当をさせていただきました」

青年の言う通りボロボロだった衣服は清潔な白のワンピースに取り換えられ、左腕の大きな怪我も丁寧に包帯が巻かれていた。

「君が・・・助けてくれたのか」

少女は青年に感謝の言葉を伝える。しかし、瞬時に顔を真っ赤に染めた。
なぜなら、ワンピースの下には下着をつけておらず裸を見られてしまったことに気付いたからだった。
少女の反応を見て青年は一点の曇りもない、爽やかな笑顔で
「とても、綺麗な体ですね。芸術品のようで、ずっと見ていても飽きませんでした」
と言葉を返した。その言葉に少女は更に顔を赤くし、声を大にして慌てふためいた。

「か、感謝する・・・!感謝はするがっ・・・その、見なかったことにして欲しい!!」
「見なかったことになんて・・・勿体なくて、できないお願いです。」

キラキラした笑顔でサラリと恥ずかしい言葉を言ってのける少年に、少女は少し引いた。
自分を助けてくれたことには感謝するが、危ない男なのかもしれない・・・と。

「そういえば、名前を聞いていなかったな。助けてくれたのに、名前を名乗らず申し訳なかった」

話の話題を逸らすために少女は名前を名乗ろうとしたが、白鬼院という苗字を出すことは控えた方がいいのではないかと悩んだ。
そして顔色を変えないように自分の名前を告げる。

「僕の名前は・・・凜々蝶という。君は・・・?」
「覚えておられないんですか?」

笑顔から一転して少年は寂しそうに顔色を曇らせた。

「・・・・・・?」

知り合いや過去に出会った人物の中で特に印象に残るような、それもこの青年のような『人間』はいなかったかのように思う。

「以前どこかで会ったことがある・・・のかな・・・」

青年に失礼があってはいけないと思い、少女は懸命に思い出そうとするがやはり記憶がない。

「申し訳ないのだが・・・以前、出会ったことがあるのだろうか?」

記憶がないとは言えず、少女は慎重に言葉を選んで少年に問う。オッドアイの綺麗な瞳と銀色の髪。
初めて出会ったはずなのに、耳に優しく感じる声。妙に居心地のよい空気。以前出会ったことがあるのであれば、忘れるはずがない。

「・・・いえ、ありませんでした。僕の勘違いかもしれません」

しばらくの間の後、少年は元の笑顔を浮かべ凜々蝶との過去の出会いを否定した。

「混乱させてしまい、申し訳ありませんでした。きっと・・・僕の記憶違いでしょう」
「そうか・・・君の・・・・・名前を聞かせてもらえないか?」
「僕の名前は、御狐神双熾と申します」

少年は頭を下げて一礼すると、テーブルの上に用意したカップに紅茶を注いだ。

「ちゃんとした紅茶をいれられなくて申し訳ありません。葉を切らしてしまっていて・・・」
「いや、十分だ。助けて貰った上に色々世話をして貰って贅沢できる身分ではないからな」

受け取ったカップに口をつけて乾いた喉を潤した。一息ついて、あまりの居心地のよさに逆に違和感を感じだして少女はカップの中に残った紅茶をまじまじと見つめた。


(何か、おかしい・・・)


初対面で、なぜか当たり前のように用意されたお茶を口にしてしまった。
本来なら自分の命を狙う輩に毒や睡眠薬を盛られているかもしれない、と警戒すべき行動であるのに。何の疑いもなくカップに口をつけてしまった。
疲れていたからなのかもしれないが、あまりの軽率な自分の行動に凜々蝶は溜息を零した。

「お口に合いませんでしたか?」
「いや、大丈夫だ。その・・・有難う。助けてくれて。君がいなければ、僕はあの場所で息絶えていたかもしれない」
「呼ばれたような気がしたんです」

『凜々蝶さまに』そう言葉を続けると、青年はニッコリと眩しいまでの笑顔を凜々蝶に向けた。

その時。凜々蝶は違和感の正体に気付きはっとする。


(なぜ、この青年は僕に敬語を使うのだろうか)
(なぜ、僕に対して恭しい態度をとるのかだろうか)