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 Written by 美咲ひなた


 
 薔薇と鎖 〜忠誠〜

2012/10/05
御狐神双熾×白鬼院凜々蝶




本来、初対面の人間に・・・しかも様付けで呼ぶなどと考えられないことだった。
それも、立場から言えば助けて貰ったのは僕の方で彼は恩人。恩人が敬語を使って見ず知らずの人間を敬うなどおかしなことだ。

「なぜ、君は僕のことを様付けで呼ぶんだ?」
「凜々蝶さまだからです」

答えになっていない答えを返されて凜々蝶はどう反応したらいいのか分からなくなってしまった。

「やはり僕と君は過去に会ったことがあるんだな・・・」
「いえ・・・ございませんよ?」
「でも、先ほど君は・・・僕が覚えがないというようなこと言ったとき、悲しそうな顔をしていた」
「僕が、そんな顔をしていたんですか?」
「あぁ・・・」

だから、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまったのだ、と。
それは声に出さず凜々蝶は双熾から見つめられる視線に耐えられず目を背けた。

「そうですね・・・では、ただの世話好きな性分の者だと思ってくだされば」
「世話好き、にもほどがあるだろう」
「そうでしょうか?」
「僕は君にそこまでして貰う義理がないんだ。だから、優しくしてくれなくてもいい」

人に優しくされることに慣れていないから、戸惑いを感じてしまう。
だから、そっとしておいて惜しいのだと・・・凜々蝶はそう言いたかった。

「どうすれば・・・凜々蝶さまは辛くならずに済みますか?」
「え・・・?」
「上手く伝えることが難しいのですが、僕は凜々蝶さまとは昨夜初めて出会いました 。・・・・そして、凜々蝶さまに従順することが喜びであり使命だと、そう感じたんです」
「昨夜初めて出会った人間に、どうしてそこまでのことが言えるのか、・・・僕には分からない」

凜々蝶の言っていることは至極真っ当な言葉だろう。だが、凜々蝶の目を真っ直ぐに見つめ双熾はなおも言葉を続けた。まるで、その思いの丈をぶつけるかのように。

「僕に凜々蝶さまのお世話をさせていただけないでしょうか」
「っ・・・・、・・・そんなことを言われても・・・困る!」

凜々蝶は少し声を荒げてベッドから降り、ソファの上に置かれた自らが所持していた小さな手荷物を取ると部屋から出ようとした。が、体が完全には回復していないためにまたも視界がぐにゃりと歪んで、胸に激痛が走る。

「凜々蝶さま。まだ、お体は大丈夫ではないはずですよ」
「・・・・、分かっている・・・、けど・・・」

床に手をつき苦しそうに息を吐く凜々蝶の肩を双熾はそっと抱き寄せると、その耳元に呟く。

「放っておけないのですよ。初めて出会った時から・・・」
「・・・・っ、僕には分からない・・・・」
「僕に凜々蝶さまのお世話をさせてください。どうしても出て行くというのであれば、せめてお怪我が治るまでは・・・」
「僕は君に何もしてあげられない。だから・・・」


(あれ・・・、急に眠く・・・・・・)


言葉の続きを発しようとした時、凜々蝶は急激に眠気が襲い瞼が重くなるのを感じた。

「・・・何か、紅茶・・・に・・・・」
「凜々蝶さま。ご無礼をお許しください」
「どうし・・・・て、こんな・・・・・っ・・・・・」

眠気に耐え切れず、双熾の腕の中で凜々蝶は意識を手放す。凜々蝶が自分の腕の中で寝息を立てるのを確認すると、その体をベッドへと連れ戻した。

「申し訳ございません、・・・・・凜々蝶さま」

双熾は微かに聞こえる程度の声で呟くと凜々蝶の額に口付けを落とし、部屋を後にした。